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「学力」の経済学-書評

教育というものをもっと客観的な視点から学べないかと考え、手に取った一冊。Kindleで読んだが、先日足を運んだ書店でもオススメの一冊の棚に入っていた。

 
「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

 

教育における成功例などが書かれた書籍は主に作者の経験からくる成功談であることも多く、全てとは言わないが主観が入っている場合が多い。

 

その点、本書の著者は教育経済学者であり、個人の体験記ではなく、個人の体験を大量に観察することによって見出された規則性をまとめられたものだ。

 

因果関係と相関関係

 

今の公教育のあり方は、先生方の経験則に基づくものが多い。その点、学者だからこそ大切にされている、因果関係から、今の定説をより科学的な根拠を持って再度説明し直している点は面白いと感じた。

 

読書をしているから子どもの学力が高い(因果関係)のではなく、学力の高い子どもが読書をしているのにすぎない(相関関係)可能性があるのです。

 

ここから、確かにそうだと整理されられた部分がある。

 

「インプット」にご褒美が与えられた場合、子どもにとって、何をすべきかは明確です。本を読み、宿題を終えればよいわけです。一方、「アウトプット」にご褒美が与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法は示されていません。

 

つまり、「いい点をとる」というアウトプットにご褒美をあげる場合は、子供自身が何をしていいのかわからない。インプットにご褒美をあげる場合には、「宿題をする」や、「本を読む」などの行動が明確になる。

 

その行動にご褒美まではいかなくても、賛美を与えてあげることが大切だと考えさせられた。確かに、子供を褒める場合、その子供の人格を褒めるのではなく、その子供がとった行動や成果を褒めてあげることが効果的であると学んだことがある。

 

「あなたはやればできるのよ」などといって、むやみやたらに子どもをほめると、実力の伴わないナルシストを育てることになりかねません。

 

子供の成長に必要なのは、地図ではなくコンパスだ。そのコンパスは自ら学び、その学ぶ楽しさを失わないように更に育んであげることを親や教師は考えるべきであると本書から学びとることができる。

 

習熟度別教育の大切さ

 

最近の研究では、習熟度別学級は、ピア・エフェクトの効果を高め、特定の学力層の子どもたちだけではなく、全体の学力を押し上げるのに有効な政策であることを明らかにするものも出てきています。しかも、この研究で習熟度別学級により、とくに大きな学力上昇がみられたのは、もともとの学力が低い子どもたちでした。

 

私が幼い頃に通っていた学習塾では、成績順に席が決められ、一定期間ごとに行うテストでクラスを分けられた。今はどこまでその方法が顕著かはわからないが、少なからず生徒の立場として学習意欲に良い方向にも悪い方向にも影響を及ぼしていたということはわかる。

 

教育投資の収益率

 

どの教育段階の収益率がもっとも高いのか、と聞かれれば、ほとんどの経済学者が一致した見解を述べるでしょう。 もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。

 

また、経済学からの視点で、教育投資という部分においては、確かに幼児教育の重要性は持ち上がる。しかし、共働きの世帯が増えていることや、待機児童の問題などが深刻化している現状を見ると、そのもっとも投資すべき部分に投資できていない日本の現状の深刻さが伺える。

 

認知能力と非認知能力

 

高校でよい成績を取る過程で獲得した非認知能力(まじめ、先生との関係がよい、計画性がある、やり抜く力がある、など)は、高校を卒業した後も、彼らを成功に導いてくれたのです。

 

ここはとても重要な部分だと思う。高校受験、大学受験、そこからの学びの環境は知識教育に重きをおきすぎていると感じる。実際に、先生の生徒への対し方の大半は講義形式での授業だ。

 

アメリカのカーン・アカデミーはそのサービスの結果、生徒以上に先生を助け、先生と生徒の関係性を更に人間的にしようと試みている部分がある。反転授業の例として、授業では先生と一緒に演習を時、宿題が講義を学んでくるという形式だ。そうすることで、教室の学びの雰囲気はどれほど変わるだろうか。

 

本書でも習熟度別の教育がより効果をもたらすと言っているように、反転授業から、更に生徒1人1人が見え、できない部分を先生との2人3脚で解決することができたのであれば、それは、IQ以上にもっと大切な、非認知能力の向上につながると考えても良いのではないだろうか。

 

最後に

 

「教育の収益率に対する情報提供」や「習熟度別学級」のように費用対効果が高いことが示されている政策は積極的に採用せず、既に費用対効果が低いか効果がないことが明らかになっている政策を実施するのであれば、巨額の財政支出を行う前に、日本でまずその政策の効果測定を行ってからでも遅くはないのではないでしょうか。

 

確かに、著者の問題提起の通り、子供達の学びの環境を経験則ではなく、より正確に効果測定が行われた上で進む政策として変わることが必要と思う。